バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第一章〜運動着の中は
2
小柄な香織が、先陣を切るように、一歩こちらに進み出た。
「さて……、南さん。それにしても、まずいことになっちゃったね……。明日香から聞いたけど、封筒には、四十万円くらい入ってたんだって?」
奇しくも、こんな状況と場所で、初めて会話を交わすことになったクラスメイト。その普段の印象が、思い起こされる。どちらかというと、幅広く誰とでも仲良くなるというより、決まった小さなグルーブの中で、お喋りをしているような生徒だった。
その香織が、探るような目つきで、涼子を見ている。
ここは、変に隠し立てしても仕方がない、と涼子は判断した。
「うん……。四十万ちょっと、あったと思う」
小さな声で答える。
「あのさ、南さん。あたし、生徒会に友達がいるから、バレー部の合宿費の件は、丸く収められると思う」
「え!? そんなの、どうやって……」
涼子が半信半疑で訊くと、香織は、待って、と手で宥めるポーズを取った。
「うん、その前にね……。あたし、明日香から話を聞いて、どうしても納得できなかったの。だってさ、盗まれたっていうけど、南さんのバッグにお金が入ってることを知ってたのは、明日香だけだったんでしょ?」
香織の一瞥が、涼子に飛んだ。
「それは……。正直、わたしも……、誰も盗めなかったはずなのにって、思う。けど、それなのに、どうしてかわかんないけど、お金が、無くなってて……」
涼子は、しどろもどろになりながらも、ありのままに話すしかなかった。
「盗める人なんていなかったのに、あなたのバッグからお金が消えた……。南さん、必然的に、あなたが疑われてしまうのは、しょうがないことだよね?」
香織の指摘は、たしかに、理屈ではもっともだったが、涼子は頭に血が上った。
「吉永さん、あなたは、わたしが盗んだと思ってるわけ?」
怒りを抑え、香織の顔を見据えた。ここは絶対に目を逸らしてはならないと思っていた。
すると、香織は片側の頬を歪めて、苦笑いのような表情を作った。
「違うって。ちゃんと話を聞いて……。あたしが言いたいのは、南さんが潔白であることを、証明してほしいってことなの。証明できたら、それでオーケー」
香織は、得意気な調子で続ける。
「そうしたら、あたしが、生徒会の友達に今回の件の事情を話して、学校側が、代わりに合宿費を負担してくれるように頼んでもらうよ。それと、南さんが合宿費を無くしちゃったってことは、他の生徒には漏れないように、配慮してあげる。だって、バレー部のキャプテンとしての信用に傷が付くのは、嫌でしょ? もうすぐ、最後の大会もあるのにさ」
香織の言葉は、まるで福音のように涼子には聞こえた。けれども、そんなにうまく事が運ぶのだろうか、と思う。
ついさっきまで、涼子は、思案に暮れていたのだ。盗難に遭ったとはいえ、合宿費が無くなったのは、自分の落ち度である。何としてでも、同額、自分が用意しなくてはらない。一時的に休部してでも時間を作り、アルバイトを始めようか、と。しかし、額が額だけに、短期間ではとても賄えそうになかった。
そこへ、何の関係もないはずの香織が、手を差し伸べたのだ。それが本当ならば、自分は、頭を下げるべきである。
涼子は、乾いた唇を舐め、気になることを尋ねた。
「でも……、どうすれば、わたしが盗んでないってことの証明になるの?」
少し間が空き、香織は、涼子の足もとを指差した。
「取りあえず、バッグの中身は、確認させてもらいたいんだけど……」
もはや、迷っている場合ではない。
「わかった。調べて」
自分のバッグを手に取り、香織に渡した。
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