バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第一章〜運動着の中は
3



 セーラー服や革靴、教科書、手帳など、バッグの中身は、一つずつ外に出された。香織と、さゆりという後輩が、それらを点検している。自分の持ち物をいじくり回されるのは、いい気がしない。しかし、置かれている立場を考えると、我慢するしかなかった。
 違和感を覚えるのは、明日香の態度だ。すっかり黙りこくってしまい、ぼんやりと涼子の私物を眺めている。明日香に対しては、言いたいことが山ほどあるが、今は、口を控えるべきかもしれない。
 その時、涼子のソックスの中を覗き込んでいる、さゆりという後輩が、まだ薄ら笑いを浮かべているのが、目に留まった。涼子は、一発で、その後輩が大嫌いになった。
 いったい、何が面白いんだよ……。ふざけてるなら帰れよ……。よっぽど、そう言ってやりたかったが、すべては自分のせいだということを思うと、涼子は、どうしても弱気になってしまうのだった。

「バッグの中は、問題ないね」
 香織は、さらりと言った。荷物がバッグに戻される。
「もう、これでいいんでしょ?」
 涼子は、ふうっと息を吐き出した。不愉快極まりない持ち物検査にも応じ、やましいところは、何一つないことを証明してみせたのだ。
 すると、香織とさゆりは、無言で歩み寄ってきた。涼子の問いに返事をせず、バッグも返そうともしないで。仲良し同士でお喋りをする時のように近づいてきて、足を止めた。
 後ろが壁だけに、なんとなく威圧されているようにも感じる。涼子は、しだいに妙な胸騒ぎを覚え始めた。
 それと同時に、気になることがあった。練習で多量の汗を吸い込んだTシャツが、少し臭うことに気づいたのだ。部活の時とは違い、汗臭い体をしているのは涼子だけなので、どうしてもそれを意識させられる。この至近距離だと、香織とさゆりは、内心、鼻をつまんでいることだろう。
 にわかに羞恥心が湧き上がってきたが、涼子は、それを抑え込み、努めて笑顔を作った。
「あの、わたしのバッグに、大金なんて入ってないって、わかったでしょ? あと……、もうちょっと離れてよ。なんか変じゃない」
 角が立たないよう、あくまでフレンドリーな口調で言い、くいっくいっと手を突き出した。

「違うでしょ、南さん。物を隠してないか調べるんだから、次は、どうするかわかるでしょ。……Tシャツとスパッツを脱いで」
 聞き間違いか、あるいは悪い冗談かと思った。しかし、香織の顔は少しも笑っていない。
「ちょっと待って……。いやだ、なにそれ……?」
 涼子は、ぴくぴくと頬が引きつるのを感じた。
「だって、しょうがないでしょう? 状況的に、盗める人がいなかったのに、お金が無くなったんだから。南さんが、完全な形で証明する必要があるのは、当然だよね。あたし、間違ったこと言ってるかな?」
 香織は、語尾を、隣の後輩に向けた。
「いえ……、あたしも、香織先輩の言うとおりだと思います」
 さゆりは、照れ隠しなのかなんなのか知らないが、またしても嫌な薄笑いを浮かべる。
 後輩の態度は言わずもがな、香織の話し方や態度も、涼子の癇に障り始めていた。なんで、あんたたちの前で、そこまでしないといけないの、と思う。
「言っておくけど、南さんが拒否するようなら、あたしは、残念だけど、南さんの力にはなれないよ。それどころか……、南さんが合宿費を盗んだ可能性が、高くなったっていうことで、今から、バレー部の顧問や副キャプテンとかに、話しに行かないといけなくなるんだけど。すごい大金だから、知らないふりはできないし……」
 香織は、抑揚のない声でそう言った。
 恐ろしいことだった。目の前が真っ白になり、パニックに陥りそうになる。自分を窃盗犯扱いする香織を、いっそ怒鳴りつけてやりたいが、ここで話し合いを決裂させるのは非常に危険である。
 さっきは、一瞬、香織のことを、自分を救ってくれる福の神のように思ったものだが、とんだ疫病神ではないか。



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