バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第一章〜運動着の中は
4



 胸がどくどくと動悸を打っている。もはや、心の余裕はなくなっていた。
 やだ……。こんなところで服を脱ぐなんて、恥ずかしい……。年下もいるのに、冗談じゃない。
「待って、お願い……。ちょっと時間をちょうだい……。だいたい、バレー部でもない吉永さんが、なんで出て来るわけ? 明日香と二人きりで話をさせてよ」
「あ・の・ねぇ、あたしたちが目を離している間に、南さんが、たとえば、お金を校舎のどっかに隠しちゃうっていう可能性もあるでしょ。今、証明してもらわないと、意味がないの。あたしは、たしかにバレー部でも、なんでもないけど、大事件だから、無視できないってだけ」
 香織のつり上がり気味の目を見ていると、正義感で行動しているというより、悪意を感じてしまうのは、気のせいだろうか。
 なぜか何も言わない明日香を、涼子は、手招きした。
「ちょっとちょっと、明日香からも、何か言ってよ。わたし、すごい疑われてるんだけど……」
 明日香は、のんきに小首を傾げている。
 涼子にしてみれば、言いたいことは、他にもたくさんあった。
 わたしが窮地に陥ってるのに、なんで一言もかばってくれないの。自分は関係ないっていう態度、すごい腹が立つんだけど。そもそも、なんで、こんな子に、合宿費のことを話したりしたの。

「うーん……。でもぉ、りょーちんのバッグから、お金を盗むことなんてぇ、誰も、できなかったよぉ。もしバレー部のみんなにぃ、事情を聞かれたらぁ、あたしぃ、そう言うしかないかなぁ……。ごめんねぇ、りょーちん……。でもぉ、本当のことだからなぁ」
 明日香は、ごまかすようにぷくりと頬を膨らませ、潤んだ目で涼子を見つめる。
 うそ……。なんで……。
 涼子は、強いショックを受けていた。裏切られた思いである。友人を擁護しようという意識が、明日香にはないのだろうか。
 香織は、自分の主張に一層、自信を持った様子で、こちらに向き直る。
「ほら、明日香が、こう証言してるんだから、決定的じゃん。これでも、まだ、服の中は見せられないっていうの?」
 
 涼子は、宙を仰ぎ、ため息をついた。
「わかった……。でも、一つだけお願い。あなたの後輩は出て行かせて。なんでさっきからずっと笑ってるの? おかしいでしょ。はっきり言って、すごいムカつくんだけど」
 涼子は、横目でさゆりを一瞥した。しかし、まだ、さゆりの口もとには笑いの表情が残っている。
「南さん、ごめん。この子、ちょっと緊張してるだけだから、悪気はないの……。やっぱり、四十万円以上の大金のことを考えると、証人が、あたしと明日香だけじゃ、少なすぎるからさ。我慢してよ」
 涼子のほうも、おいそれと受け入れられない。
「あのさ、吉永さん……。ちょっと考えれば、わかるでしょう?」
 最後までは言いたくなかった。年下の見ている前で、服を脱ぐことを要求できる神経が、信じられない。
 しかし、香織は、露骨に不愉快そうな顔をした。
「なに? あたしに怒らないでよ。あたしだって、こんなことに巻き込まれて迷惑してるんだから。そんなに嫌なら、もうやめる? べつに、いいんだけど、それならそれで……」
「わかったよ、ごめん……」
 自分でも意外だったが、涼子は思わず謝っていた。香織の機嫌を損ねると、涼子を犯人だと決めつけ、そのままバレー部に報告しに行きかねない。口論を避けるため、どうしても、こちらが妥協する形になってしまう。なんとなく、脅迫を受けているような気持ちにすらなっていた。初めて話したクラスメイトだが、この子とは、とてもじゃないが仲良くなれない。
 高校生活、最悪の日だ。



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