バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第一章〜運動着の中は
5



 涼子は観念し、とうとう白いTシャツの裾に手を掛けた。
 Tシャツを首から抜き取り、くしゃくしゃに丸めながら、さりげなく視線を落とした。汗を掻くため、透けて目立たないように、白い綿のブラジャーを着けている。その白い布地が、Dカップの乳房に汗で張りつき、乳首の突起の形状が、表面に浮き出てしまっている。
 涼子は、羞恥心を感じ、さりげなく片腕で胸を覆った。

「念のために調べるから、一度、シャツをこっちに貸して」
 香織は、無遠慮に手を伸ばした。
「えー……。ええ……?」
 涼子は、思わず狼狽の声を上げた。自分の汗臭いTシャツを、他人の手に持たれることには、強い抵抗がある。
 だが、香織の苛立ちの色を見て、涼子は、なげやりな手つきで渡した。そして、次にやらなければならない行動には、本格的な屈辱が待っていた。完全な下着姿になる瞬間である。
 
 涼子は、強烈な羞恥心を懸命に抑えて、覚悟を決めた。
 スパッツの縁を両手で掴み、一気に足首のところまで引き下ろす。中に籠もっていた汗の臭いが放出され、鼻を突く。ブラジャーと揃いで白い綿の、シンプルな柄のパンツ。覆う面積の小さい布地が、ぴったりと肌にフィットしている。
 両脚からスパッツを抜き取る動作は、まさに屈辱以外の何物でもない。ぼっと頬が紅潮していくのを感じながら、陰毛がはみ出ていないことを確認する。自分ひとり下着姿になるのは、想像していた以上に恥ずかしかった。
 
 香織が、またしても手を伸ばす。
 この子には、デリカシーというものがないのだろうか、と思う。涼子は、不快感を隠さず、汗まみれのスパッツを、ぼんと香織の掌に載せた。
 白いTシャツと黒のスパッツが、香織とさゆりの手で点検される。生地を裏返したり、中を覗き込んだりしている。
 ああ、いまいましい。脱いだばかりの自分の運動着が、他人にいじくり回されるのを見ていると、背中がむずむずするような生理的嫌悪感を覚えた。

「南さん。シューズとソックスも脱いで。調べるから……。あ、それと膝のサポーターも取って」
 香織の徹底的なまでの要求に、涼子は言葉を失う。たしかに、隠そうと思えば隠せるのかもしれないけど……。大金が消えたことを考えると、万全を期すのは当然のことなのだろうか。
 涼子は、シューズと靴下を脱ぎ、膝のサポーターを脚から抜くと、それらを香織のほうへ押しやった。
 裸足の足の裏に、コンクリートの冷たい感触が伝わり、ひどく惨めな気持ちになった。今、自分が身に着けているものは、下着だけなのだということを、否が応でも意識させられる。
 
 涼子は、左腕で乳房を覆い、右手でそっと下腹部を押さえた。
 ふと、視線を感じたので、目を向けると、明日香が、じっと涼子の半裸を見つめていた。目が合うと、その美貌の口もとを緩め、小悪魔っぽく微笑みかけてくる。
 その瞬間、涼子は、気まずい思いと恥ずかしさで、耳たぶまで赤くなってしまった。好意的に解釈すれば、涼子の緊張を和らげようとしているとも受け取れるが……。なによ……。あんまり、じろじろこっちを見ないでよ……。



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