バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第一章〜運動着の中は
7



 ブラジャーも、涼子の衣類一式の上に載せられる。
「さて、南さん。もう無理やり下着を取られるのは嫌でしょう。最後のそれは、自分で脱いでね」
 とうとう、香織はそれを要求してきた。同じ女の子なのに、ジャケットやコートを脱ぐことのように、平気な顔をして言ってくるのだ。
 うそでしょう。信じられない……。わたしは、三人の女子の前で、パンツまで脱がないといけないの……。お金なんて、わたし、盗んでないのに……。
「もうやめて、お願いだから信じて。こんなところに、お金が隠せるわけないでしょう?」
 命乞いをするかのような口調で、涼子は哀願した。高校に入学してから、いや生まれてこのかた、同じ生徒に対して、こんな話し方をしたことは一度もない。
「点検してみないとわからないじゃない」
 香織は、にべも無く言う。
 もう、この子には何を言っても無駄だ……。涼子は、藁にもすがる思いで、明日香に訴える。
「ねえ明日香! なんとか言ってよ! わたしは盗んでなんかいない、信じてよ!」
 涼子は、ほとんど半狂乱の状態だった。
「信じてるよお、りょーちん……。だからぁ、完全にぃ証明してみせてねぇ」
 明日香の他人事のような答えに、涼子は、目の前が暗くなった。
 
 おそるおそる自分の下腹部を見やると、純白の綿の布地が、網膜に映る。できない……。こんなところで脱ぐなんて、絶対にできない……。
「やっぱり、自分じゃあ脱げないみたいだねえ」
 ついに、香織が痺れを切らし、涼子の目の前に歩み出た。びくりとして、涼子は後退りするも、後ろはコンクリートの壁である。
 俯き、乳房を抱いている涼子の顔を、香織は、下から覗き込んできた。自分で脱げないのね、と問いかけるように。そうして、涼子の体に視線を這わせながら、スローモーションのようにゆっくりと身を屈めていく。足もとにしゃがんだ香織を見ていると、涼子は、恐怖のあまり、唇が震え始めた。
 香織は、今一度、つり上がり気味の目で、じっと涼子の顔を見上げた。そして、そっと視線を落とす。その動作は、これから下ろすよ、という宣告に他ならなかった。
 香織の両手が、涼子のパンツに伸びる。何本もの指が腰骨に当たり、白い布地の縁の中へと潜りこんできた。
 涼子は、とうとう乳房を隠すことを諦め、両手で下着を押さえた。豊かな乳房がぶるりと揺れ、その輪郭が露わになり、腕に圧迫されていた乳首が、つんと前に突き出る。
 次の瞬間、パンツを引き下ろそうとする香織と、それを阻止したい涼子の力が、薄い布地の上でせめぎ合うことになった。
 涼子は、声を出すこともできず、獣のように荒い息遣いで踏ん張っていた。もう、おしりの側は丸出しになっている。両手で押さえた股間の一点で、完全に下ろされるのを防いでいる状態である。
 こちらに勝ち目はなかった。相手は、たとえ生地が伸びようが破れようが構いはしないのだ。そのことを直感的に悟った涼子は、ほとんど無意識のうちに次の行動を取った。要するに、見られたくないところを隠すことに、全神経を集中したのだ。
 ほどなく、パンツは、涼子の膝まで下ろされた。その生地の内側に、うっすらと黄色い染みが滲んでいるのを見て、涼子は、恥ずかしさのあまり、息が止まった。

「足を上げて」
 香織は、冷たい声で命令した。涼子の人権など、一顧だにしていないような態度である。
 屈辱。
 自分の股の前から早く離れてほしいという一念で、涼子は言われるまま、片足ずつ上げていった。
 完全な裸にさせられた。この事実を、自分では現実として受け入れられなかった。意識が、朦朧としてくる。
「りょーちん、おめでとーぅ!」
 明日香が、はしゃぐように笑いながら、手を叩き始めた。
 友人のその姿を、横目で見ながら思う。あんたはいったい、なんなの……。
 
 涼子は、乳房を完全に露出し、両手を重ね合わせて股間を隠しているという、死ぬほど惨めな格好で立たされていた。コンクリートの壁に、ぴったりとおしりをくっつけている。どの角度からも、そこを見られたくなかったからだ。
 
 続いて、さゆりまで拍手を始めた。だが、さゆりのほうは、涼子ではなく、香織に向かってだった。
 香織は、先程までの仏頂面とは打って変わって、上機嫌な表情になっている。涼子のパンツの両端をつまんで、後輩の目の高さに持ち上げると、その布地を伸び縮みさせるのだった。
 香織とさゆりのやりとりは、理解不能だった。香織は、涼子の目を憚らず、堂々と、下品な悪ふざけをするようになっていた。まるで、涼子が全裸になったところで、スイッチでも入ったかのように。それは、後輩のさゆりや、友人であるはずの明日香にも、当て嵌まることかもしれないが。
 
 その時、涼子は、目を疑うような行為を見せつけられることになった。
 香織は、パンツの内側を覗き込み、にたっと笑うと、あろうことか、鼻をそっと寄せたのである。
「くっさーい」
 涼子は、殴られるような衝撃を受けた。
 後輩のさゆりまでも、同様に鼻を近づける。さゆりは、顔をしかめて鼻をつまみ、侮蔑の目つきで、先輩である涼子を見る。
「明日香、明日香、明日香!」
 香織が、興奮した様子で連呼する。
 愕然とすることに、明日香は、二人をたしなめるどころか、興味津々の表情で涼子のパンツを手に取った上、指で操って生地を裏返しにしたのだった。
 少女たちが、きゃあきゃあと甲高い声で笑う。



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