バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第二章〜憧憬と悪意
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 教壇に立っている三十半ばの女教師が、次の生徒を当てた。
「はい、ではそこから、南さん、お願いします」
「はい」
 南涼子は、返事をして起立した。
「ザッティー、オヴ、グッドスムェル、イズサーヴドゥイン、フロントオブヒアー……」
 吉永香織は、その、どことなく甘い響きを帯びたアルトヴォイスの朗読を、小気味よさに浸りながら聴いていた。常日頃から、香織は、涼子の発する声音には独特の魅力を感じていたのだが、今日は、根本的に別の意味があった。
 淀みなく、高校生にしては上出来すぎるほどに英単語を発音する涼子の声に、胸の奥をくすぐられるようで、気持ちがいいのだ。胸の奥。そこには、嗜虐心があった。

 今、涼子は、前のほうの席で、教科書を広げて立っている。香織の席は、一番後ろだった。流暢に英文を読み上げる涼子の背中を、香織は眺めている。ついつい、にやけが零れてしまう。
 昨日、あんな目に遭わされたというのに、普段と変わらぬ堂々とした態度でいられるとは、まったくご立派なことだ。さすがは、南涼子。それだけの女だからこそ、周到に計画を練り、リスクを冒してまで、無様な姿を拝んだ価値があるというもの。さらに、今日もまた、あの忘れられない快感を味わえることを思うと、身震いが起きそうだった。
 今の香織にとって、涼子の朗読は、得も言われぬメロディであった。



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