バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第四章〜女の子の手
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 それにしても、重ね合わせた両手で、必死に股を隠している格好は、まるで全身で恥を表現しているかのようで、エロティック極まりない眺めだ。
 しゃがんでいる香織は、涼子の腕をつかんだまま、下腹部を注視した。
 がっちりした涼子の体格からすると、当然、その手も、男並みに大きいのではないかと思っていたのだが、案外、そうでもない。香織のものとも、それほど変わりはなく、すべすべとした甲やこぢんまりとした指、綺麗な爪の形など、やっぱり、女の子の手だなあという感慨を受ける。
 自分と同じ、年頃の女の子の両手が、恥部をきつく押さえつけているのだ。そのような、むごたらしい状況へと追い詰めた張本人は、他ならぬ自分であるが、香織は、ふいに、その手に対して愛おしい気持ちを覚えた。レズ的な意味ではなく、純粋な愛情表現として、手の甲に、優しいキスをしてやりたくなったほどである。
 しかし、そんな甘ったるい思いは、極めて短い間で我に返るがごとく、香織の脳裏から雲散霧消した。そうなると、逆に、その女の子らしい『おてて』が、ことさらに香織のサディスティックな感情を掻き立ててくる感じがする。

 あらためて下腹部をよく見ると、まあ、なんとも、哀れで見苦しい光景なのだろう。涼子は、性器および陰毛の密生範囲を死守しているものの、両手のはしっこから、数本、太くて濃い縮れ毛が覗いてしまっているのだ。もちろん、涼子本人もそれに気づいており、恥ずかしさを痛切に感じていることだろう。
 ふと、香織は、ずいぶんと長い間、さゆりと明日香を差し置いて、自分ひとりが愉しんでいることに思い至った。ちょっと勝手すぎるなと反省し、いったん涼子から離れて、三人の陣形に戻ろうと思う。
 香織は、不吉な予感を与えるように、重ね合わされた手の甲を、意味ありげに指先でとんとんと叩いた。そうして、涼子の腕を撫でるように、手を上のほうへと滑らしながら、ゆっくりと立ち上がる。そのまま何気ない手つきで肩をぎゅっと握ると、日々の厳しいトレーニングを思わせる筋肉の厚みが、掌に感じ取れた。
 顔の位置が、香織と比べてだいぶ高い、涼子の表情を観察する。その顔つきからは、いまや、香織をひどく怖れるようになっていることが窺い知れた。要するに、次に何をされるのかと、常に戦々恐々としているのだ。
 せわしない呼吸音が聞こえてくる。不安と恐怖、それに耐えがたい恥辱も交じっているだろうか、そのせいで、涼子は、ひっきりなしに荒い息を吐いているのだ。また、そうやって、ぎりぎりのところで精神崩壊を防いでいる風情でもあった。
 
 いい……。とてもいい。まさに、至高の眺め。香織は、涼子の発狂する様を見たいわけではない。そんな状態になられては、一気に面白味がなくなってしまう。精神の限界を行ったり来たりしながら、苦痛に悶え続ける姿が、最も望ましいのだ。
 生かさず殺さず、獣じみてはいるが、獣ではない。その均衡は、常識的に考えてとても難しいのだが、好都合なことに、涼子のタフな精神力のおかげで、いい塩梅に保たれている。
 香織は、これほどまでの愉しみを与えてくれる涼子に対して、ちょびっとだけ感謝の気持ちを持って、その体を指先で撫でた。
 人差し指を、とん、と鎖骨の中心に宛がう。じりじりと指を下降させだすと、突然、涼子が、激しく肩を左右に振って、大声で喚いた。
「いやっ! 触らないで!」
 往生際の悪いことに、またしても涼子は、香織から逃げようとする。
 その瞬間、香織の頭の中で、何かがぷちっと弾けた。即座に、涼子の腕を鷲づかみにし、力任せにその裸体を引っ張る。
 両手で股を覆っている不自由な体勢の彼女が、ぎくしゃくと脚を戻されるたびに、外気に曝されている乳房が、浅ましく揺れ動く。
「痛い……」
 涼子が、悲しげな声をぽつりとこぼした。
 そこで初めて、香織は、自分の爪が、涼子の二の腕にきつく食い込んでいるのに気づいた。すぐに指の力を緩めてやったが、乱暴な手つきになったのは、香織の腹立ちの表れだった。
 涼子が嫌がるのも当然だと思っているし、人間として間違っているのも自分だと承知しているのだが、なぜか、再三にわたって逃げようとする涼子の態度が、癪に障ったのだ。主従関係における主人のほうは、従者の、ほんの些細な言動にさえ激昂する。今の香織は、ああいった心理状態なのかもしれない。



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