バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第四章〜女の子の手
6



「ああ……。ごめんね、南さん。ちょっと痛かった? でも、あんまり何度も逃げられると、こっちも、頭に来るからさ。じっとしててよ」
 香織は、冷えきった口調で言った。もう一度、裸体の鎖骨のあたりに指先を突き、徐々に下げていく。
 涼子の乳房は、豊満であるが、巨乳という表現は適切でないぐらいの大きさで、谷間から両脇へと抜ける下部のラインが、とても扇情的な曲線を描いていた。乳輪の直径もほどよく、極めて整った円形である。最先端には、剥き出しになって痛々しげな様相を呈している、紫がかった赤い色の乳首が、つん、とこちらを向いている。
 双方の乳房の先端部分を眺めていると、なんとなく、意思を持った両眼のように見えなくもない。この、神経の集中した鋭敏な突起を、つまんで、きゅっと締め付けたら、涼子は、あられもない反応を示すだろうか。頬を赤らめたり、だらしなく口を半開きにしたり、艶めかしい声を発しちゃったりして……。
 そんなわけないよな、と香織は心中で笑った。ものすさまじい拒絶的な反応を起こすに決まっている。
 
 なんだか、だんだんと、目の前にある、肉感的な体と豊かな乳房が、香織は、妬ましく思えてきた。
 自分は、永遠に手に入れられないもの……。すっとしない感情を、涼子の裸体に宛がっている指先に込めて、汗ばんだ胸の谷間を下降していく。涼子の喉元から、ごくっと生唾を飲む音が聞こえた。
 香織は、乳房の間に指を突いたまま、口を開いた。
「ねえさっき、触らないで、とか叫んでたよねえ? もしかして、おっぱいのこと言ってたの?」
 上目遣いに、涼子の表情を窺う。困惑したように、また、恥ずかしげに唇を窄めて、香織の視線から逃げた。
「馬鹿じゃないの。なに、自意識過剰になってんの? おっぱい触るなんて、あたし、一言も言ってないんだけど」
 小馬鹿にしてやってから、留めておいた指先を、一気に、へそのほうにまで下げる。そうして香織は、ようやく踵を返した。

 涼子が身に着けていたものは、地べたに乱雑に積まれているが、パンツだけは、香織の手中にある。
「ごめーん……。あたしだけで勝手にやっちゃって。いちおう、南さん、裸になったからさ、これから、どうしよっか?」
 打って変わって友達同士の口調で、しばらく自己中に走ってしまったことを、さゆりと明日香に素直に謝る。それから、手に持っている戦利品を、まず、出し抜けに、後輩の胸元に押しつけた。
 虚を衝かれたさゆりは、白い布地を受け取るも、直後にしかめっ面になった。
「ちょっ……。香織先輩、いきなり、やめてくださいよっ」
 こんな汚いものを、という言葉が続きそうだった。
 抗議を無視して、香織は言う。
「さゆり、それ、広げて見てみなよっ」
 なにかを察したのか、さゆりは、苦々しげにも期待しているようにも見える感じに口元を歪め、両手の指で布地の端を持った。その中に視線を落とすと、一オクターブ低い声音でおどけてみせる。
「おっわぁ。この染みは……、昨日よりも、えらいことになってますねえ」
 やっぱりこの後輩は、いい味を出すやつだ。
「どーれぇ。あたしにも見せてぇー」
 写真やプリクラに群がる生徒のように、明日香も寄ってくる。彼女は、さゆりから目当てのものを手渡されると、指で器用にひっくり返して、股布の部分が上にくるようにした。
「りょーちん……。ふふっ……、ふふふっ……」
 明日香は、奇妙な甲高い笑い声を、くつくつと口元から漏らし続ける。フランス人形を想起させる美貌には、香織でさえ、少々、背筋がうそ寒くなるような、凍った微笑が張り付いていた。



次へ

登場人物・目次
小説タイトル一覧
メニュー
トップページ

PC用のページはこちら

Copyright (C) since 2008 同性残酷記 All Rights Reserved.