バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第八章〜密室
6
「さっさと脱げよっ!」
突然、香織が、痛烈な語気で強要してきた。
立ち尽くしていた涼子は、脳髄に、何かを打ち込まれた感じがした。
見通しが甘かった……。こんなところに来ないで、いっそ、逃げればよかった。
やり場のない後悔の念を抱えながら、涼子は、おもむろにセーラー服のスカーフに手を掛けた。
襟から抜き取った青色のスカーフに目を落とすと、出口の見えない絶望感が、じわじわと精神と肉体を覆い始めた。今、この手の中にあるものは皮切りで、もう間もないうちに、脱いだ下着をこんなふうに持つ羽目になるという、悪夢のような想像。
セーラー服とインナーのタンクトップを脱ぎ、地味な白いブラジャーとスカートという格好になる。そして、感情を押し殺し、スカートのホックを外してファスナーを下げた。
下着姿を晒すと、涼子の体を眺める三人の表情に、強い好奇の色が浮かぶのを感じた。
「あれぇ……、りょーちん。今日は、珍しく上と下でばらばらじゃーん。どうしたのぉ?」
目つきを不気味に輝かせた明日香が、嫌味ったらしく訊いてくる。
涼子は、淡いグリーンのパンツを着けていた。
「白いのは、染みが目立つから嫌だったんでしょ、南さん。前もって、あたしたちに確認される時のことを考えてたみたいじゃん。やっぱり、パンツの汚れをからかわれたこと、けっこう傷ついてたんだ?」
香織の口から吐かれる言葉の毒々しさに、涼子は、耳朶まで紅潮してしまう。
普段、下着は、部活で汗を多量に掻くため、目立たない白のブラジャーと、上下セットのパンツを着用することが習慣となっていた。だが、なぜか昨夜は、タンスから色違いの下着を選んだのだった。今思うと、無意識のうちに、手が、白いパンツを忌避していたような気もする。
ちゃちな予防線。なんだ……、わたしは最初っから、気持ちで負けていたんじゃないか。何があろうと、この三人に打ち勝つという信念は、実際には土台から揺れていたのだ。
涼子は、ブラジャーを外すと、自分の柔らかな乳房を両腕で押さえた。なんだか、当たり前のことのように衣類を取り去っている自分自身が、救いようのない間抜けな人間に思えてくる。
とはいえ、最後の脱衣をあっさりと受け入れてしまうほど、自己を喪失したわけではない。半裸の状態でも、恥ずかしさと悔しさで背中の筋肉が引きつりそうだった。
涼子が動作を止めていると、上履きの足を、ふいに、香織がぐりぐりと踏みつけてきた。
「これも必要ないでしょ……。裸足になんなよ」
まるで、涼子が身に何かを着けていること自体、目障りだというような物言いである。
香織の徹底的なまでの悪意に、涼子は、背筋のうそ寒くなる思いがした。
足の指を引っ掛け、上履きとハイソックスを脱ぐと、間髪を入れずに香織が、それらを邪険に足で払い除ける。そうして、冷ややかな眼差しを涼子に向ける。
「なにボケっと突っ立ってんの? 早く下も脱ぎなよ。そうゆう中途半端な態度、マジ、むかつくんだけど」
本気で苛立っているような声でそう言う。
冷酷非情……。いや、というより、まともな人間じゃない。
眼前に立っている小柄な女の体は、まるで悪意の塊だ、と涼子は感じた。そんな底無しの悪意の前では、わたしの女としての恥じらいなど、到底生き残る余地はないのかもしれない。
涼子は、戦慄すら覚えていたが、やはり次の動作に取りかかるのは不可能だった。
身動きの取れない涼子を、冷然とした眼差しで眺めていた香織が、小さく舌打ちをした。
それを聞いて、涼子の直感が、禍々しい気配を察知したのとほぼ同時に、下着の片側のサイドの部分が、脈絡なく伸びてきた香織の指につままれ、引き下げられた。
「やっ、いやぁ!」
驚愕のあまり、涼子は野太い悲鳴を上げていた。
恥部を隠すグリーンの布地が、斜めにずり落ちた状態で、陰毛がはみ出してしまっている。
へどもど腰の引けていく涼子の醜態に、さゆりと明日香が失笑する。
「まったく、いい加減、あたしの手を煩わせないでほしいんだけどさあ……。南さぁーん」
わざとらしい呆れ口調で言いながら、香織がのろくさとしたモーションで体勢を下げていく。
瞬時にして、心胆を寒からしめられる体験が想起され、涼子は、条件反射のように両手を下着の中に突っ込んだ。
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