バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第八章〜密室
8



 ひとしきり笑った香織が、まだ余韻冷めやらぬ顔つきで、涼子に近づいてきた。
「はい、南さーん。ボディチェック!」
 香織が、涼子の背中に、ぱしっと手を張りつけた。
 胸のむかつくような生理的な嫌悪感が、頭のてっぺんから足先の神経にまで伝播する。裸の体を、この世でもっとも許せない女に触れられる、なんとも言い様のない感覚。
 涼子は、その手に背中を押された。

 なにやら、さゆりと明日香が、自分たちの周りの机をどかし始め、三、四メートル四方ほどのスペースを作っている。どうやら香織は、そこへ涼子を引っ張り込もうとしているらしい。その場が、涼子を辱めて遊ぶための舞台であることは、火を見るより明らかだった。
 涼子は、背中を押される力に逆らい、踏み留まった。香織の喜色がたちまち失せる。
「なに立ち止まってんの? こっちきてよ」
「えっ……、やめて待って。ていうより、ちょっと、触らないで!」
 上体を振り、香織の手から離れる。かなり思い切った抵抗だった。
 香織は、わずかに面食らった様子だったが、どうも本気で頭に来たらしく、ひどく険悪な顔つきに変わった。
「マジむかつく……。こっちが口だけだと思って舐めてんでしょ、あんた。あんまりふざけた態度取ってると、あたしもキレるよ?」
 わたしのほうは、そっちの望みどおり、こんな所で裸になっているというのに、なぜ、この女は、そんなに腹を立てる必要があるのか。いったい何が、まだ物足りないというのか。
 涼子が、悲嘆の溜め息をつき、目をそむけた瞬間だった。視界の端から顔へと、香織の掌が迫る。
 頬への衝撃と、乾いた皮膚の音。
「……痛っ」と、一拍置いて、涼子はぽつりと声をこぼした。頬が、かすかに熱くなっている。
 顔を引っぱたかれた……。たいして痛みは感じなかったが、香織にビンタを張られたという事実に、気持ちが動揺していた。

「その反抗的な態度、むかつくって言ってんの。謝って」
 香織は、自分の行為に少しも罪悪感を感じていないどころか、まだ不愉快そうに、眉間に皺を寄せている。
 なんでわたしが、ぶたれた上に謝らないといけないの……。こっちのほうが百倍殴りたい状況だというのに。それに、暴力だけは禁止という話ではなかったか。
 しかし、黙っていたり反論しようものなら、二発目、三発目を喰らいそうな空気だった。
「ごめんなさい……」
 涼子は、自尊心を捨て去った心境で、そう言った。
 気を落として立ち尽くす涼子の背中に、再度、香織の手が回る。
「ほら、ぼーっと突っ立ってないで、こっちにきなって」
 背中を手荒く押しやられる。その勢いで脚が前に送り出され、そばにあった机で、腰をしたたかに打った。
 時を移さず、追い打ちの一撃を喰らう。両手で恥部を押さえた、バランスの取れない体勢のため、前のめりになってよろめくと、気づいたら、作られたスペースに足を踏み入れていた。



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