バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第九章〜肉塊
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「あのさあ、さっさと言われたとおりにしてくんない?」
 香織が、割って入るように不機嫌な声を出した。
 悦に浸った様子の明日香とは対照的に、香織は面白くなさそうな顔をしている。
 涼子には、その理由がなんとなく読める気がした。明日香と香織には、容姿という決定的な相違がある。処女だのキスだのといった話は、香織にとっても耳が痛いものであったのかもしれない。
「もおー……、マジでムカつくんだけど、その態度……。無視するとかさあ、あたしのこと舐めてんでしょ?」
 いやに攻撃的なその物言いは、涼子には八つ当たりとしか思えなかった。
 取るに足らない存在の香織ごときが、勝手にわめいている。ただそれだけのことなのに、いちいち不安に駆られる自分が、情けない。
「いえ……。そんなこと、ないです……」
 やるせなさに胸を締め付けられる思いだったが、涼子は言葉を絞り出した。
「だったらさあ……、なんでそうやって、とぼけていられるわけ?」
 香織は言いながら、ふいに足を踏み出した。
 びくりと肩が竦んで、涼子は迫ってくる香織をただ眺めていた。顔面に、香織の手が伸びてきたと思った直後、額のところに擦れるような衝撃を受け、首が反り返った。揃えた指で小突かれたのだ。
 
 なに……。泡を食って視線を落とすと、香織の吊り上がり気味の目が涼子を睨み上げている。
「ほらっ、あたしに敬意を払ってるんでしょ? だったら、いつまでも恥ずかしがってないで、毛の処理してないこと、確認できるようにしてよ」
 おぞましくも、腋毛や陰毛を暗示する黒い色によって視界が暗く塗りつぶされる。クズ、異常者、変態、頭がおかしい、くたばって、消えて……。真っ暗に閉ざされそうな意識の中、涼子は呪詛を念じ続けていた。



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