バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第九章〜肉塊
5



「りょーちーん……。香織をあんまり怒らせっとぉー、また、ぶたれちゃーうよー」
 明日香が間延びした声を発し、机から飛び下りると、ばたばたと駆けてくる。
 恥部を隠している涼子の両の腕が、出し抜けに、明日香の手につかまれた。
「はやく、この手をうえに上げるのぉー」
 明日香は、親友と戯れるような調子で涼子の両腕を左右に揺さ振る。両腕を揺らされる振動と同調して、精神的にも激しい動揺に襲われ始める。
 涼子は、死ぬような思いで股を押さえつけていた。

「ああーっ、もうムカついた……。しょうがないから、明日香、その状態のまま、『こいつ』が動けないようにしておいてよ」
 業を煮やしたらしい香織が、口を開く。
「後ろのほうは丸見えなんだから、まず、おしりの穴から調べることにするよ。……さゆりっ! あんたもこっち来て」
 その言葉は、耳に入ってから一拍遅れて、涼子の脳内でスパークした。脳髄の片側半分が、焼け爛れてしまった感じがする。さらに遅れてから、人智を超えるような恐慌が襲ってきた。
「いっ……、いやああ!」
 涼子は、完全に取り乱して獣じみた声で悲鳴を上げていた。
 その激烈な反応は香織と明日香の好餌となり、二人は顔を見合わせ、にやにやと笑う。
 逃げるどころか体を反転させようにも、両の腕には明日香による『手枷』が嵌っていて、思うに任せない。まさに、鎖に繋がれた囚人という格好なのだった。なんで……。なんで、わたしは何もしてないのに、こんな目に遭わないといけないのよ。

「ほんっと、相変わらず、汚いおしりだね」
 香織の挨拶代わりみたいなものだが、涼子は、顔から火が出るほど屈辱的だった。気配から察するに、涼子の臀部の真後ろに香織とさゆりは屈んでいるらしい。
 今は、全身が恥の肉塊と化しており、体のあちこちから恥の臭気を漂わせている。三人の視覚と臭覚に前後を挟まれると、その思いが心身を急速に蝕み始める。
「ねえ南さん。今日の朝は、うんこしてきたー? 快便?」
「なんか……、南先輩って、すんごい太いの出しそーぅ」
 聞いているだけで泣きたくなってくる。涼子は、嗚咽を漏らすように喘いだ。
 目の前の明日香は、そんな涼子の苦悶の表情をじっと見つめながら、口元に含み笑いを浮かべているのだった。
「ちゃんと答えろよ、無視してんじゃねーよ」
 突然、おしりの肉を香織に強くつねられ、涼子は驚愕に飛び上がりそうになった。もはや、あるかなきかの誇りを守るための、答えに迷う余裕すら消え失せた。
「あっ……、はい。家で……、して、きました……」
 そのとたん、三人の嘲笑に涼子は包まれた。意識が遠のいていくのを感じる。視界を占める、明日香の緩みきった笑い顔が、ぶれて見えていた。
 これは、本当に、現実の出来事なの……。



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