バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十章〜波及
2



 涼子のおしりに回った両の手が、ぐいと強く太ももをつかんだ。
「よくがんばったねー、りょーちん……。まん毛の検査はぁ、ごーかく」
 竹内明日香は、至近距離に茂る涼子の陰毛を見つめたまま言った。けだるげに立ち上がると、恋人同士のように顔を近づけてくる。
 視界を占める、フランス人形めいた女の顔。
 涼子が呆然と向かい合っていると、彼女は、ちょろりと舌を出し、ようやく離れていった。
 涼子は、肩を抱いて乳房を隠し、唇を噛んだ。体の震えは一向に治まらない。逆に、今の今まで、明日香に間近で恥部を観察され、臭気まで嗅がれていたという事実が実感として襲ってきて、収拾が付きそうになかった。
 いやだ、わたし……、恥ずかしい。こんなことって、ありえるの。もう、何もかもめちゃくちゃじゃん。

「ねえっ、明日香……。あそこのにおい、きつかったでしょ?」
 吉永香織が、露骨に、そして聞こえよがしに尋ねる。
 明日香は、返事の代わりに涼子を振り返り、意味ありげに笑った。
 気づくと、彼女たちは、一様に侮蔑と嘲りの笑みを顔に張りつけ、一糸まとわぬ涼子の立ち姿を見すえているのだった。
 年下の石野さゆりまでもが、他の生徒に対しては絶対に向けないであろう蔑視に光る目つきで、先輩である涼子を真っ直ぐに見ている。
 涼子は、たまらず目を逸らした。言い様のない屈辱感と恐怖に、体を締めつけられる思いがする。
「なんか南先輩、今度は、ま○こじゃなくて乳首隠しだしてんだけど……」
 さゆりが調子に乗って、低く笑いながら悪態をつく。
 年下の挑発は、香織や明日香のそれとはまた異質で、免疫のできるものではなかった。その度、涼子のプライドにはざっくりと生々しい傷跡が残る。
 にわかに、暗い憎悪が湧き起こる。おまえだけは絶対許せない。いつか必ず復讐してやる。後輩を視界の隅に捉え、涼子は誓った。



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