バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十一章〜間隙
5



 香織は、その感触を確かめるように、体操着を指先で撫で始めた。
「ちょっと、これ直さないと。滝沢さんのシャツ、ぐしゃぐしゃになっちゃてるじゃん……。南さん、一度、脚を放して。でも、その場からは動かないようにね」
 訳がわからず、涼子は、言われるままに脚の力を抜いた。
「あぁー……。本当だ……。駄目じゃないですか、せんぱーい。人のもの、しわくちゃにしたら」
 気づくと、背後の気配も、涼子の腰より下の位置にあった。

「えっ……、ねえ……、なんなの?」
 前後から至近距離で裸体を挟まれることほど、恥ずかしくて惨めなものはない。二人とも屈んでおり、その顔の高さを考えれば、なおさらだった。今、自分の体は恥の肉塊と化していて、恥ずべきところを晒しているのは無論のこと、恥の臭気までも漂わせているのだ。
 涼子は、その身悶えするような屈辱感に耐えながらも、足もとに落ちた体操着をいじくる、香織の手つきに、目を注いでいた。
 
 その時、香織が体操着の袖を摘んで、白い布地が、ぴんと張った。赤い丸首の部分が、上にくる。つまり、前後で二人が、引っ張っているのだ。
「さゆりっ。いくよ、せーの!」と香織。
 刹那、直感が脳裏に最悪の事態を描いたが、思考を巡らす間もなく、香織とさゆりは、勢いよく立ち上がると同時に、体操着を引き上げていた。
「そりゃっ!」とさゆり。
 赤い丸首の部分が、涼子の股間を直撃し、陰毛を擦って性器の肉にめり込んだ。電気ショックを加えられたかのように、びくりびくりと全身が痙攣する。肉体が受ける、有り得べからざる刺激に、人間としての理性が吹っ飛んだ。
「いやああぁぁぁ!」
 涼子は、噴き上がるような絶叫を発していた。
 前と後ろの女に局部を見られるのも構わず、大きく右脚を上げて体操着をまたぎ、ばたばたとその場から離れる。涼子の醜態に、三人の女は爆笑した。
 
 なによ今のは……。うそ……、信じられない。
 涼子は、放心状態に陥っていた。教室中に響く、少女たちの嘲り笑う声すら、単なる騒音にしか聞こえないが、今起きた、目を疑うような出来事は、網膜に焼きついている。
 滝沢さんの体操着、しかも首を通す部分が、わたしの、こんなところに食い込んだ……。ぼっと顔が熱くなる。ごめんね、という彼女への申し訳ない思いと、何があっても本人には知られたくないと願う気持ちとが、交互に頭をもたげていた。もちろん、後者のほうが、断然強大なのだが。



次へ

登場人物・目次
小説タイトル一覧
メニュー
トップページ

PC用のページはこちら

Copyright (C) since 2008 同性残酷記 All Rights Reserved.