バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十二章〜慟哭
3



 ところが、三人は、失笑を漏らしながらも、不満げな、ええーという声を口々に出している。
「なんか……、南さん、まだ言い方に、照れ、があるよね? 声もあんまり大きくないし……。やっぱりまだ、心が開けてないんだ?」
 能面のような冷たい笑みを張りつけた香織は、いきなり、ぐいっと体操着を引き上げた。
 柔らかな性器の割れ目に、よりきつく体操着が食い込み、続いて、陰核に仮借のない摩擦が走った。アスリートとして鍛え上げられた涼子の肢体が、家畜の断末魔のごとく、無様に跳ね上がる。
 涼子の頭の中で、何かが弾けて消えた。それは、女としての最後の矜持かもしれなかった。
「たきざわさん! トモダチに! なってぇー!」
 目を剥いて宙を見上げ、口の両端から唾を飛ばしながら、とても思春期の女にはそぐわない、獣のような野太い怒鳴り声を発し、教室中に轟かせる。窓ガラスが振動するほどの声量だった。もしかすると、部活動で学校に残っている生徒たちの中には、聞こえた者もいるかもしれない。
 
 束の間、打って変わって妙な静寂に包まれた。
 聞こえるのは、涼子のせわしない喘ぎ声だけだった。少女たちも、女子高生離れした大音声に、びっくりしたような表情をしている。
 だが、互いに顔を見合わせ、誰からともなく笑い声を漏らすと、たちまち、大爆笑の渦へと発展した。少女たちは、顔をくしゃくしゃにして下品な声で笑い、身をよじったり、腹を抱えたりしている。

「『たきざわさーん、すきぃー』って言ってぇ、りょーちん。今くらいの声で」
 腕を絡ませたままの明日香が悪乗りして、さらなる要求をしてくる。
 もうやけくそだった。この場から逃れたい一心で、涼子は、思いっきり息を吸い込む。
「たきざわさんっ! すきぃー!」
 一糸まとわぬ姿の涼子が、若々しい乳房の肉をぷるぷると震わせながら、ロックスターよろしく絶叫する。
 見るも無惨な醜態に、少女たちは、耳をつんざくような金切り声を上げて抱腹絶倒した。
 涼子はひとり、裸出した体中に、恥辱という泥水をひっかぶった思いで、わなわなと打ち震えていた。
 これで気がすんだでしょ……。もうやめてよ……。

「引く……。変態。レズだ。リアルレズ……」
 涼子の悲惨な後ろ姿に向かって、さゆりは毒づく。
「南さん、今の言葉、結構、マジで言ったでしょ? 本当は、滝沢さんのこと好きだから、どうしても、友達になりたかったんじゃないのぉ?」
 香織の低レベルすぎる発言に、涼子は、溜め息を隠そうとはしなかった。もう、当たり障りのない言葉を返す気力さえ、残っていない。
 しかし、香織は、涼子に対してだけは、容赦というものを知らないのだった。返事を促すかのように、またも、涼子の股間を目がけて体操着を引き上げた。今度は、ぼってりとした大陰唇の肉をこねくり回すかのように、ぐいぐいと布地を擦りつけてくる。
「うっ……、やぁっ……」
 もう言葉にもならない小さな涙声が、喉元から漏れる。胸の内には、無限の絶望感が押し寄せていた。
 涼子が、プライドをかなぐり捨てて狂態を演じたというのに、なおも香織は、この間隙から、涼子の肉体を解放しようとしないのだ。
「黙ってるってことは、もしかして図星? 滝沢さんに、惚れちゃってるの?」
 香織の吊り上がり気味の双眸が三白眼になり、濁った光が宿っている。
 恐ろしく下卑たその表情を見ていると、涼子は、またしても言い様のない戸惑いを覚えた。
 いったい、あんたは何が目的なの。これ以上、何をしろというの。
 
 下腹部への責めは、執拗を極めている。まさか、と思う。涼子の脳裏に、ぼんやりと浮かぶものがあった。それは、涼子にとっては馴染みの薄い、オーガズムに関するイメージだった。
 まさか、この女は、涼子の肉体を性的絶頂へと向かわせようとしているのではないか。想像するのも憚られるような、何らかのいかがわしい反応を、涼子が示すことを期待して。
 心胆を寒からしめられる思いがする。穢らわしい。変態。ありえない。
 たとえ、裸の体に何をされようとも、この女たちの見ている前で、性的な快感を覚えることなど、絶対にありえない。確信できる。



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