バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十二章〜慟哭
7



「そうだ、先輩……。いいこと考えた……。先輩のおしりの穴、汚いですから、このシャツで拭かせてもらいましょうよ? そうすれば、滝沢先輩に、もっと心も開けると思いますし……。一石二鳥、みたいな……」
 耳を疑う言葉だったが、涼子は、とっさに左手でおしりの深部をふさぎ、泡を食って後輩を振り向いた。
「やめて! お願いだから、やめて!」
 目をしばたたき、彼女を見つめる。
 その容姿は、何の変哲もない、一学年下の女子生徒。どちらかといえば美人の部類に入るかもしれないが、印象が薄く、廊下で何度すれ違っても、顔を憶えられないような。
 彼女は、ごまかすような笑いを見せた。

「いい! さゆり、それ、すごいいい案! やって、さゆり!」
 香織が歓喜し、後輩の邪知を褒めちぎる。
「ほらっ、南さん……。なんで手で隠してんの? さゆりに、ケツの穴まで拭いてもらいなって。それとも、この期に及んで、まだ、滝沢さんのことが苦手なわけ?」
 今は、香織の言葉など、いちいち気にしていられない。涼子の視線は、意味不明な薄笑いを浮かべる後輩に吸いつけられていた。
 冗談ではなく、本気で言ったのだろうか。絶対に、されたくない……。体のもっとも不潔な部分に、クラスメイトの衣類を擦りつけられるなんて。
「あの……、待って。わたしだけじゃないのっ。滝沢さんっていう、あなたの知らない先輩に、迷惑……、っていうか、すごい嫌な思いさせちゃうから言ってんの。そんなことするの、おかしいって、普通に考えれば、わかるでしょう?」
 もはや、支離滅裂な訴えにしかならなかったが、涼子は、それでも一縷の望みを託していた。さゆりは、なぜか、はにかんだように視線を床に落とした。
 
 しかし、涼子のやることなすこと、すべてに苛々している風情の明日香が、ここで黙っているわけがなかった。明日香は、急にヒステリックな声を上げ、涼子の肩を乱暴につかんできた。
「もぉーう! うぜぇーんだよ! ごちゃごちゃ、言い訳してんじゃねぇーよっ。ケツを拭くのは、オ・マ・エの問題なんだよっ。タキザワさんとか、なぁに、人のせいにしようとしてんのぉ!?」
 涼子は、無理やり前に向き直らされると、おしりを押さえていた左手を、目障りなもののように打ち払われた。続いて明日香は、涼子の右腕を捕らえることを忘れなかった。
 
 再び、涼子の肉体は、香織とさゆりの作る間隙に、物理的にも釘付けにされることとなったのだ。
 やり場の無くなった左手で、そっとおしりに触れる。うそ……。いや……。涼子は、何らかの奇蹟に救いを求めるような思いで、宙を仰いだ。
 
 完全に背を向けてから間もなく、さゆりの低い笑い声が聞こえた気がした。
 次の瞬間、前後に張られた体操着の布地が、涼子の股間に打ち当てられる。香織ではなく、さゆりの主導で、そのまま、さらに後方へと引き上げられていく。肛門に重点的に当てるべく、体操着の角度を調整しているらしいことがわかる。
 
 石野さゆり。後ろに立つ後輩の性根は腐りきっており、腐臭すら発している。
 『拭く』と言った、その言葉通り、まるで大便の残滓をこびり付けようとしているかのように、年上の女の肛門に、体操着を擦りつけてくるのだった。
 精神に異常を来してしまいそうな汚辱感。家畜のような存在に堕ちていく悲しみ。
「うぅ……。いやぁ……。もういやぁ……」
 涼子は、顔を歪めながら、うわごとのように呟いていた。
 
 明日香が、涼子の横顔と、蹂躙される臀部とを見比べ、ふんと鼻で笑った。涼子の乱暴によって背中を打つ羽目になった、その怒りの、十分の一くらいは、これで収まったのかもしれない。そんな残忍そうな冷たい微笑を、彼女は口もとに滲ませているのだ。



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