バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十三章
隔絶された世界
9



 へどもどする涼子の表情と、卑猥な様相を呈する下腹部とを見比べていた、香織の仏頂面が、にやりと歪んだ。
 不吉な予感に、鼓動が速くなる。いったい、何をするつもりなの……。
「さゆりっ……。南さんの、この姿、カメラで撮っておいて」
 血の気が引いた。体操着を取り落としそうになる。
 全裸の涼子が、自慰行為よろしく、クラスメイトの体操着を恥部に食い込ませている姿が、写真に記録されようとしているのだ。
「ちょっと、やだっ……。やめて、お願い……。お願いだからぁ……」
 理性を失った人間のような声が、涼子の口から出ていた。
 しかし、香織もさゆりも、耳を傾ける素振りすら見せない。さゆりは嬉々として、机に置いてあるデジタルカメラを手に持つと、無遠慮にこちらに向けて構える。
「撮りますよー、せんぱい」
 いやだ……。涼子は、悲鳴を発しそうになった。思わず体操着を取り落とし、顔を背ける。
 シャッターの音が鳴ったのは、その直後だった。さゆりは不満そうな声を出し、香織は舌打ちした。
 心臓が、どくどくと脈打っている。今、まさに、生命線を絶たれるところだったと思う。
「ミ・ナ・ミ……。何やってんの? あんた……」
 香織の呼び捨てが、恐ろしく威圧的に響いた。
「滝沢さんにシャツを返せなくなったのは、あんたが、ま○こにシャツをこすり付けて、オナニーしたせいでしょ? その事実を証拠に残すことの、何がいけないわけ? まさか、後で言い逃れしようとか、考えてるんじゃないでしょうね。そんなこと、許さないからね。……ほら、とっとと、シャツをま○こに食い込ませなよ」
 何者かの体液にまみれて臭気を放つ、滝沢秋菜の体操着。そして、その体液が、南涼子の体から排出されたものであると、一目でわかる写真。そのセットが、香織たちの手中に握られることになるのだ。
 いや……。そんな写真を撮られたら、本当に、それこそ本当に、高校生活が終わってしまう……。
 涼子は、両手で頬を包み込み、首を横に振り続けた。

「ミ・ナ・ミ……。あんたが協力できないっていうのなら、その、きったないシャツ、処分するのは止めにするよ。……体育の時間、滝沢さんが、そのシャツを着ちゃうようなことになっても、いいのかなあ?」
 ふっと体の力が抜けていく。
 滝沢秋菜が、この体操着を手に取るような事態だけは、何を犠牲にしてでも防がなくてはならない。今、涼子の頭で導きだせる答えは、その一点だけだった。後のことは、何も考えられない。
 
 わなわなと震える手で、落とした体操着をつかむ。赤い丸首の部分を上にして跨ぎ、もう一度、ぐいっと性器に食い込ませる。
 涼子は、教室の天井を仰ぎ見た。喘ぐような自分の荒い息遣いが、耳に付く。
 恥辱に耐えるのも、今日までなんだと、これまで自分に言い聞かせてきたが、もはや、そんな儚い希望すら、心から消え去ろうとしている。
 きっと、高校を卒業するまで、この地獄から逃れられないんだ……。どうなっちゃうんだろう、わたし……。



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