バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十四章
自己保身
2



 ついに来た、と確信したのは、最後に呼び出された日から四日後のことだった。
 教室で、クラスメイトの数人と昼食を食べている時だった。あの女は、白昼堂々と声を掛けてきた。
「りょーちーんっ、りょーちーんっ」
 はっとして見やると、竹内明日香が、含み笑いをして立っていた。
「明日香じゃーん、どうしたのー!?」
 いち早く反応したのは、涼子の隣にいるバレー部の浜野麻理だった。何も知らない麻理にとっては、明日香は、マネージャーとはいえ部活仲間なのだ。
「うーん? りょーちん呼びに来たのっ……。りょーちん、あのコのこと話したいからぁ、ちょっと来てっ」
 麻理と明日香は、なにやら楽しげに、両手で力比べのようなことを始めていた。しかし、涼子を見る明日香の目には、冷笑の色があった。
 体温が下がっていくのを感じる。あの子……。滝沢秋菜のことか。そうでなくても、人に聞かせられない話であることは確かだろう。涼子は、とっさに返事をすることができなかった。

「なになにー、あの子の話って? めっちゃ気になるー!」
 同じくバレー部の雨宮理絵が、近くの机の椅子を引き、そこをぽんぽんと叩いて、明日香に座るよう促した。
「ほかの子が待ってるからぁ、行かなくっちゃダメなのっ……。あーん! うぐぅ……」
 明日香は麻理にあっけなく力負けし、媚びるようなうめき声を出していた。周囲から不審の目で見られないよう、こんな時でも、普段通りの自分を演じているのだ。
 その姿を不快な思いで眺めていると、ふと、ねっとりとした視線を感じた。開いている教室のドアの向こう。陰から、吉永香織が、じっとこちらを観察しているのが見えた。
 体が凍りついた。呼び出しだ……。まさか、周りに友達がいるのも構わずにやって来るとは、思ってもみなかった。動揺を友人たちに悟られては、まずい。
「ああっ、うんっ、うんっ、わかった……。いま行くっ!」
 涼子は、努めて明るい声で言い、無言の間をごまかすように、とびっきりの笑顔を作ってみせた。明日香が、涼子のいじらしい振る舞いを見て、ふふふと笑う。
 
 涼子が席を離れると、友人たちは、二人のことを大して気に留めていない様子で、話の続きを始めた。バレー部のキャプテンとマネージャーとの間に、どす黒い真実が隠されているなどとは、夢想もしないだろう。
 仲間の輪から引きずり出される形となった涼子は、心の内で呟いた。あの子たちは、いいなぁ……。



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