バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十六章
二年前
11



 秋菜は、猛毒を持った生き物だ。今一度、それを再認識した。脳裏に、こんなイメージが思い浮かぶ。
 体育倉庫の地下だった。部活の練習を終えた後、涼子は、そこに呼び出されていた。Tシャツとスパッツ姿だ。まだ、服は脱がされていないのだ。
 涼子の視線の先には、秋菜がうずくまっており、不気味な微笑を浮かべている。涼子は、明らかに秋菜を怖がっていた。ようやく、秋菜が危険な生き物であることを、悟ったらしい。
『早く、前に進みなって』と香織は涼子を急かした。
 しかし、涼子の足は、前に出ない。
『やだぁ。やめて……。わたし、こわい……』
 涼子は、泣きそうに顔を歪め、首を振っている。
 香織、さゆり、明日香の三人が、涼子の体を押さえにかかった。両腕を、それぞれ、さゆりと明日香がつかみ、香織は、後ろから、胴体に抱きつくような格好となった。Tシャツは、部活の練習で掻いた汗のせいで、じっとりと湿っている。いや、もしかすると、恐怖のあまり、全身から脂汗が噴き出しているのかもしれない。
『ちょっと! やだやだ、やめて、離して! 離してよっ!』
 涼子は、パニックに陥った。
 香織たちは、その暴れる体を、前へ前へと押し出していく。香織も、全力で押していた。涼子の逞しい上半身を、撫で回すようにしながら。
 あと一メートルという距離まで迫ると、秋菜は、機嫌のいい猫のように、にんまりと笑ったかと思うと、突然、大きく口を開けた。どう猛な肉食獣のような牙が現れる。猛毒の牙だ。
 涼子は、目を剥いて叫んだ。
『わかった! わたし、なんでもするから、それだけはやめてぇ! お願いだからぁ!』
 どさくさに紛れ、香織は、涼子の乳房を揉み始めた。豊満な肉の潰れる感触が、掌に伝わってくる。
『そんなこと言って、本当は、興奮してるんでしょう?』
 香織は、涼子のうなじに囁きかける。だが、涼子は、香織のそんな行為を気に留めている余裕すらないようで、荒い息を吐きながら、死に物狂いで秋菜から逃げようとしている。
 秋菜が、ついに立ち上がり、ゆらりと涼子に歩み寄った。そして、キスをするような動作で、ためらいもなく涼子の首筋に噛みついた。毒牙が、皮膚に沈み込む。まるで吸血鬼だ。
『いったぁぁぁーい! やめてぇぇ! いたぁぁーいぃぃ!』
 香織に、初めて肛門を見られた時以上の絶叫が、涼子の口から発せられている。秋菜は、首筋に食らいついたまま離れない。
 涼子の肉体が、びくびくと痙攣し始める。香織は、その振動を、指が食い込むほど乳房を押し潰しながら、体で堪能していた。その時、香織の下腹部は、燃えるような熱を帯びていた……。
 
 そこで、そのイメージは、すうっと頭から遠ざかっていく。
「南さん、滝沢さんのことが、怖くてしょうがなくなって、裸のまま、外に逃げ出しちゃったりしたら、どうしよう……?」
 涼子の運命を思うと、香織は、なんだか同情の念すら湧いてきそうだった。
「もしかしたら、わたしのせいで、途中で、南さん……、オシッコ、漏らしちゃったりするかな? 人間って、恐怖が限界を超えると、失禁するっていうじゃない?」
 その『オシッコ』という単語が、いやに生々しく聞こえた。秋菜は、下品な言葉を、それ以上はつつしむかのように、口もとに手を当てている。
「うっはぁ。裸で、おしっこなんて漏らしたら、流れ出てるのが、一発でわかるし……。ちょう惨めぇ」
 香織と秋菜は、揃って下品な声を立てて笑った。
 
 ふと、一年の頃を思い出す。秋菜に目を付けられた、可哀相な芝田さん。しかし、秋菜の本物の悪意を向けられる涼子に比べれば、あの芝田さんが、幸せな女子高生だったように思えてくる。
 秋菜は、艶めかしい仕草で髪をかき上げると、しっとりとした声で言う。
「わたしって、性格がいいからさあ、わたしに対して、何もやってない子には、ひどいこと、できないんだよねえ」
 嘘つけ。この、性格最悪のくせして。香織は、心の中でそう突っ込んだ
「でも、南さんは、わたしの写真を盗んじゃったから、アウト。このけじめは、きっちり取ってもらう。もう、まともな生き方なんて、できないくらい、プライド、ずたずたにしてやるから」
 香織は、ごくりと生唾を飲み込んだ。
 そして、秋菜は、机の上にある無惨な涼子の写真に、再び目を落とし、苦笑混じりに呟くのだった。
「それにしても……、きったならしい、体ねえ……」
 香織の胸は、期待にどきどきと脈打っていた。



第十七章へ

登場人物・目次
小説タイトル一覧
メニュー
トップページ

PC用のページはこちら

Copyright (C) since 2008 同性残酷記 All Rights Reserved.