バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十七章
部活の練習に関すること
5
「ああ、もういいよ、腕、下ろして。腋の検査は、終わったから。それで……、まん毛もけつ毛も、処理は、してないんだね?」
香織は、自分の制服のスカートでも手を拭いながら、そう言った。
「はい……」
涼子は、屈辱的なポーズを解き、小さく返事をした。
「それじゃあ、ちゃんと、自分の口から、それを宣誓して。わたし、南涼子は……って」
宣誓……? 香織が、何を言いたいのか、いまいちよくわからなかった。
「えっ……。わたし、南涼子は……、処理とか、してません……」
涼子は、もじもじと口にする。
だが、香織は、つまらなそうな表情を見せる。
「だ・か・らぁ、どことどこを、処理してないのか、はっきり言いなさいよ。それに、宣誓なんだから、もっと大きな声で。部活の時みたいに」
ようやく、香織のくだらない意図を理解した。言いたくないが、言葉を濁しても、香織を苛立たせるだけだと諦める。涼子は、腹から声を絞り出した。
「わたし、南涼子は……! まん毛も、けつ毛も、処理は、しておりませんっ!」
気品を大事に生きてきたわけではないが、『まん毛』はともかく、『けつ毛』などという言葉は、これまでの人生で、一度も口に出したことはなかった。
少女たちは、面白おかしそうに笑った。まさに幼稚としか、言い様がない。
「わかった。南さんの言葉を、信用してあげる。これで、南さんのボディチェックは、終わりってことで……。今回みたいに、ちゃんと、『約束』を守っていれば、何も問題はないから。これからも、そうするんだよ」
香織は、話を切り上げた。香織と明日香が、涼子のそばから離れていく。
下の毛まで調べられることにならなくて、よかった、という安堵の思い。
けれど……。
「あっ、ねえ、あの……」
涼子は、遠慮がちに声をかけた。
「なーに?」
香織は、優しげに小首を傾げる。
ごくりとつばを飲み込み、涼子は言った。
「あの……、腋……。もう、今日あたりには、処理したくて……」
こんなことに、いちいち許可を貰おうとする自分が、惨めでならない。
香織は、にいっと笑った。
「気になるわけ?」
同情を引きたい思いで、涼子は、しおらしく、こっくりとうなずいてみせた。さらに、少し目を潤ませ、香織を見つめる。
「だめ。もうちょっと我慢して。もうちょっとしたら……、あたしたちが、剃ってあげるから」
涼子は、絶句した。なんというおぞましい話だろう。人のむだ毛を、剃りたがるなんて。もう、勝手に処理をしてしまおうかと思う。しかし、香織を怒らせると、どういうことになるかわからない。どうするべきか……。いや、今、そのことを考えても仕方がない。家に帰ってから、考えればいいことだ。
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