バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十七章
部活の練習に関すること
6



「よし、じゃあ……、そろそろ本題に入ろっか。南さんに、来てもらったのはさ、南さんの、部活の練習に関することなんだよね」
 部活の練習のこと……。それならば、まず、盗んだ合宿費を、全額返せ、と涼子は思う。
「南さんさあ……、なんか、ここんところ、調子、悪いらしいじゃん? 明日香、そうなんでしょ?」
「そー。この前なんかぁ、りょーちんのせいで、三年がぁ、二年に、ゲームで負けちゃったのぉ」
 明日香は、ふがいない涼子を責めるように、膨れっ面を見せている。
「どうゆうことなの? 南さん。二年に負けるなんて……。もう、最後の大会だって、近いんでしょ? やる気、あんの?」
 なぜ、部外者の香織に、部活のことで、そんな口出しをされないといけないのかと、涼子は、胸がむかむかした。そもそも、自分の不調は、完全に、香織たちが原因なのだ。香織たちから、度重なる辱めを受け、もう、精神的にも肉体的にも、限界を超えていた。さらには、明日香が、未だに毎日、何食わぬ顔をして、練習に参加してくるということ。そんな状況で、以前のようなプレーができるはずがなかった。
「明日香は、バレー部のマネージャーだから、南さんの調子が悪いことに、すごい悩んじゃってるんだよ? 可哀相だと思わない?」
「そーだよー」と明日香は、唇を尖らせる。
 だったら、せめて、部活の練習にだけは、出てこないで。涼子は、よっぽど、そう言ってやりたかった。
「それで、明日香が、南さんの問題で悩んでるから、あたしたちも放っておけなくて、三人で、話し合ったってわけ。どうしたら、南さんの調子がよくなるかって……」
 そこで、少女たちは、なにやら意味ありげに、目を見合わせる。
 涼子は、嫌な予感を覚えた。

「一つ、南さんに訊きたいんだけどさ……、その、スパッツって、動きやすいわけ?」
 香織は、妙なことを言う。
「えっ……。これ……?」
 涼子は、自分のはいている黒のスパッツに触れた。
「そう。それ。……動きにくいんじゃない?」
 いったい、香織は、何が言いたいんだ……?
「そんなこと、ないんだけど……」
 実際、はいていて、体を動かすのに、不便を感じたことはなかった。
「うーん、でも、やっぱり動きにくそうだよ、それは……。明日香、あれ、出して」
 香織は、勝手に話を進める。
 明日香は、待ってましたと言わんばかりに、置いてある自分のバッグを、ごそごそとあさった。
 彼女が、バッグから取り出したもの。それは……、紺色のパンツだった。
 香織は、そのパンツを受け取り、涼子に突き出した。
「はい、南さんにプレゼント。今から、これに、はき替えて。スパッツより、ずっと動きやすいはずだから。今日の残りの練習は、これで、やってみて」
 そう言われて、涼子は、ようやく、その紺色のはき物が、下着などではないことに気づいた。それは、ブルマと呼ばれるものだった。以前、昔の高校バレーの映像を観た時に、女子選手たちが着用しているのを、目にしたことがある。しかし、今、そんなものをはいて練習を行えば、時代錯誤も甚だしく、部員たちから、間違いなく、奇異の目で見られてしまうだろう。それに、何より問題なのは、香織の手にあるものは、下着と見まがうほど、布地の面積が、極めて小さいことである。
 涼子は、ぴくぴくと頬が引きつるのを感じた。
「やっ……、むり……。そんなのはいて、練習やってたら……、絶対、みんなから、変に思われちゃう……」
「変に思われる? どうして? 昔は、みんな、普通にこれをはいて、部活とかやってたんだよ? 全然、変じゃないよ?」
 香織は、とぼけたことを言う。
 涼子は、首を横に振り続けた。
「南さんのためなんだよ? もう、最後の大会も近いのに、いつまでも、調子が悪いままじゃあ、困るでしょ? でも、これをはいて練習すれば、動きやすくて、きっと、調子も、よくなってくるはずだから……。取りあえず、今日一日だけでもいいから、これで、やってみなよ」
「いやっ、できない……」
 そんなもの、受け取れるはずがない。
「できない、じゃないでしょ? 南さんの調子が悪いせいで、二年にも負けたっていうのに、このままでいい、なんて、キャプテンとして、責任感が足りないんじゃない? ほらっ……、これに、はき替えて」
 香織は、なおも、ブルマを突き出してくる。
 見れば見るほど、そのブルマの小ささが、際立って見える。今、自分が身に着けているパンツよりも、小さいだろう。
「待ってよ……。そんなのはいたら、パンツが、思いっ切りはみ出しちゃうから……」
「まず、はいてみないと、わからないじゃん」
 香織は、言下に言った。
「いや、わかるよ……。絶対、はみ出しちゃう……」
 そうなるのは、目に見えている。
「だ・から、一度、はいてみなって」
 香織は、苛立った声を出した。
 涼子は、確信していた。ブルマをはいたら最後、下着の収まりきらないような状態でも、香織たちは、その格好で練習に戻れと言うだろう。
「やだっ、やめて。本当に、むりだから」
 涼子は、口調を強めていた。
「どうゆうこと? 南さんのために、明日香が、せっかく買ってくれたんだよ? 明日香の好意を、台無しにするわけ?」
 香織の機嫌が、悪くなる。
「りょーちんっ、がっかりさせないでよっ」
 明日香も、怒ったような声を出した。
「せんぱーい。それの、どこが嫌なんですかあ? べつに、かっこ悪くなんか、ないですよお」
 後輩までもが、そんなことを言い始める。
「ほら? さゆりだって、変じゃないって、言ってるじゃん? 南さんだけだよ、変だって思ってるのは……。取りあえず、はいてみなって」
 香織は、どこまでもしつこい。
 涼子は、首を横に振る動作を繰り返す。
「いいから、はけって言ってんの。ほらぁ」
 香織は、涼子の体に、ブルマを押しつけてきた。
 もう、香織たちの機嫌を気にするのも、限界だった。涼子は、香織の手を横に押しのけて言う。
「ねえ、いい加減にして。これ以上、わたしの部活の、邪魔するようなことだけは、やめて。わたし、もうそろそろ、練習に戻るから……」
 このまま、ここを立ち去ったほうが、いいかもしれない。



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