バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十九章
しんしんと
12



 今。
 夜の静けさが耳につく。
 香織は、勉強机から上体を起こした。椅子の背もたれに背中を預け、まぶたを閉じる。
 
 考えれば考えるほど、結論は、揺るぎないものになっていく。
 近い将来、涼子が、学校からドロップアウトするという事態が、現実味を帯びてきた以上、それに備えるのは当然のことである。つまり、涼子との今生の別れが、すぐそこまで迫っている、という前提で、行動を起こさなくてはならない。計画の大幅な変更だ。もはや、涼子に対して、次はこんなことをする、その次はこんなこと、そのまた次は……、などと悠長に考えている場合ではないのだ。次が、最後の機会。そう見るべきだろう。
 だとすれば、選択の余地はない。
 日時は、明日の放課後だ。涼子を連れ込む場所は、体育倉庫の地下をおいてほかにない。そこで、涼子との関係に、自分の納得のいく形で、ピリオドを打つ。簡単にいえば、思い残しのないよう、涼子を、なぶり尽くすのだ。
 むろん、今の涼子の健康状態を考えれば、それが、いかに無茶なことであるかは、充分、承知している。まず間違いなく、涼子は、心身ともに壊れ、人間らしさを完全に失い、いわば人の形をした、ただの物体と化すだろう。そして、そうなった時点で、涼子の残りの高校生活は、幻のものとなる。その翌日から涼子を待っているのは、鬱々たる病床の生活である。それが、どのくらいの期間にわたるかは、誰にもわからない。最悪、涼子が、健康的な暮らしを取り戻す日は、二度とやって来ないかもしれない。そんな涼子の運命を思うと、いささか良心の呵責を感じることも、また事実だ。けれど……。
 もう、やむを得ないのだ。なんといっても、自分にとっては、そうすることが、残された唯一の道なのだから。もしも、未練を残したまま、涼子と離れ離れになったら、こちらの気がおかしくなってしまう。相手のことより、自分のことを考える。そんなのは、人間ならば、当たり前の話である。
 
 やはり、結論は、ただひとつ。
 明日、涼子との物語に、自らの手で幕を引く。悲劇のヒロインたる南涼子には、空前絶後のバッドエンディングを迎えさせた後に。



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