バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十九章
しんしんと
18



 確定した。
 明日、南涼子は、五人に取り囲まれることになる。むろん、着ているものを、すべて脱がされたうえで……。その恥辱は、並大抵のものではあるまい。それに耐える涼子の様子を、香織は、脳裏に思い浮かべてみた。いかにも極限状況に置かれた人間らしい、がちがちにこわばった表情。どことなく焦点の合わない眼差しが、何もない宙に向けられている。その場の誰とも視線を絡ませたくない、という気持ちの表れなのだ。憎き香織たちを睨みつけようという気概など、かけらも湧いてこないらしい。情けない限りである。そして、全裸にさせられた時の、お決まりのポーズを取っている。乳首を隠すことは諦め、両の手のひらを、恥部に、というより、陰毛の茂る範囲に、ぴたりと押し当てた、あの、乙女心を全開にしたポーズである。長い手脚は、小刻みに震えており、それに合わせて、乳房やおしりの肉がぶるぶる揺れている。かつてないほどの精神的苦痛に神経を蝕まれているせいで、体中の毛穴から、あぶら汗が噴き出しており、きつくなった体臭が、むんむんと立ち上っているかのようだ。その姿の惨めさ、下品さ、いやらしさ……。
 あっ、と思った。
 香織は、右手を、パンツの中に突っ込んだ。軽くまさぐってみる。早くも、体から滲み出したもので、パンツが濡れていた。
 いけない、いけない。ここ最近は、涼子を辱めることを想像しだすと、すぐに体が反応を起こしてしまう。
 
 勉強机の椅子から立ち上がり、部屋の反対側に移動した。タンスの引き出しから、バスタオルを取り出し、それを、ベッドのシーツの上に広げる。それから、クローゼットの扉を開けた。暗がりの奥から、ある衣類の入った、チャック付きの大きなビニール袋を引っ張り出す。それに入っているものは……、滝沢秋菜の体操着のシャツだった。もちろん、家に持ち帰ってから、一度も洗濯はしていない。
 香織は、そのビニール袋を両手に持った。
 これから行おうとしていること。それは、ある種の一線を越えている。そんなことは、百も承知だ。しかし、気が変わりはしない。そもそも、自分は、すでに、この体操着を何回も『使って』いるのだ。
 それを抱えて、ベッドに戻る。
 
 たった今、敷いたばかりのバスタオルの上に、腰を落とした。
 パジャマの上着のボタンを外し、ブラジャーをたくし上げる。パジャマのズボンとパンツは、脚から抜き去ってしまう。
 これで態勢は整った。
 香織は、ビニール袋のチャックを開けた。
 その瞬間、むっとする臭気が鼻を突いた。部屋中に、臭いが充満しそうである。その臭いに包まれているだけで、もう、頭がくらくらとしてくる。
 ビニール袋の中から、体操着のシャツを取り出した。
 赤く縁取りされた丸首の部分は、そこに染み込んだもので、白く、がびがびになっている。
 香織は、躊躇することなく、その部分に鼻を押しつけた。思いっ切り息を吸い込む。鼻腔を突き抜ける、猛烈な腐臭。嗅覚への刺激が強すぎたせいか、まるで、脳細胞がとろけるような感覚を味わう。興奮のあまり、自分の口から、世にも下品なうなり声が出た。涼子の怒号を、よく、獣じみていると思うが、それより何倍も女らしからぬ声音だった。
 一度、体操着を鼻から離し、その生地をぴんと張った。片方の肩口のところに、三センチほどの、黄土色の線が確認できる。香織は、うふふっと笑いながら、その部分に頬ずりした。こんな汚れですら、愛おしいと思える。
 
 それから、ごろりと横になった。
 ふたたび、体操着の赤い丸首の部分で鼻を覆う。鼻がねじ曲がるほどの悪臭だというのに、それでいて、なぜか、安心感を与えてくれる、その臭い。ただ、ひとつ、問題があった。この体操着は、体育の時間、滝沢秋菜が身に着けていたものだということ。それを考えると、なんだか、あの、いけ好かない滝沢秋菜の体臭まで混じっているようで、気持ちが悪くなってくる。だが、そのことは、なるべく意識しないようにし、今、自分が嗅いでいるのは、純然たる涼子の臭いなのだと、自分自身に言い聞かせる。そうして、その臭気を貪るように嗅ぎ続けた。
 誰にも言えない。滝沢秋菜の体操着を、こんなふうに使っていることは……。
 
 香織は、すっかり火照った性器に、右手を当てた。そこは、もはや、お漏らしをしたかのように濡れていた。我ながら、浅ましい体だなと思う。だが、押し寄せる興奮の嵐の前では、どうでもいいことだった。大陰唇の全体をこね回すようにして、性器への愛撫を開始する。直接、クリ○リスに触れることはしない。少しずつ快感を高めていくのが、香織のやり方なのだ。
 しんしんとした夜の静けさに、香織の切なげな声が滲む。滝沢秋菜の体操着は、口もとを覆う役割をも果たしていた。
 
 ねえ、南さん……。あたしと、さゆりと、明日香。あなたにとって、この三人は、どんな存在? ヘドロの塊みたいな、醜すぎる生き物? うん、うん、わかる、わかる。じゃあ、そんな腐りきった三人の前で、素っ裸になるって、どんな気分だった? 思い出すだけで、気が狂いそう? うん、うん、それも、よーくわかる。でも、ごめん……。明日は、もう二人、こっちに加わるからね。それも、ただの二人じゃないよ。
 
 滝沢秋菜。
 涼子が、苦手意識を抱いている生徒である。
 明日の宴では、秋菜を、どう活用するかが、最大のキーポイントとなるだろう。
 そういえば、その秋菜は、この前、足立舞を連れて入った喫茶店で、こんなことを言っていた。
 涼子と同等の立場に堕ちた、芝居を打つ……。
「吉永さんたちは、次に、わたしを標的として狙ってる。南さんは、そう思い込んでるんでしょう。だったら、わたしも、堕ちたことにしようよ。つまり、吉永さんたちの前で、わたしと、南さんは、哀れな者同士、寄り添い合うっていうシチュエーションになるね。南さんだって、人間。自分ひとり、恥ずかしい目に遭わされるより、誰かと一緒のほうがいいって、絶対に思うんだから。でも……、結局、服を脱ぐことになるのは、南さんだけ。そうなると、南さんの頭の中は、『なんで、自分だけなの?』って思いでいっぱいになる。その思いが爆発したら、南さん、とんでもない醜態をさらしてくれそうで、わたし、それが見たくてたまんないのお」
 秋菜は、そう熱っぽく語り、とろんとした三白眼の目をするのだった。その顔の、怖ろしかったこと。絶対、敵に回したくない。心の底から、そう思わされる女の顔が、そこにはあった。
 その一場面を思い出し、香織は苦笑した。秋菜の底無しの悪意には、身震いすら覚える。だが、それでこそ、自分の見込んだ人物。
 それと、もうひとり。
 足立舞。
 涼子に、告白の手紙を手渡したと思われる生徒である。
 明日、香織たちの手引きにより、涼子と舞は、『感動の』対面を果たすのだ。先輩と後輩。堂々たる体格を有するバレー部のキャプテンと、小動物のように小柄な生徒。好かれている側と、好いている側。そんなパワーバランスは、徐々に逆転していく。涼子の衣類が、一枚一枚、はぎ取られていくにつれて……。
 全裸になり、文字通り、手も足も出ない涼子と、その涼子に対して、恋心を抱く舞。その二つをくっつけ合わせたら、いったい、どんな化学反応が起こるのかと、香織は、わくわくしている。
 
 滝沢秋菜と足立舞という、涼子にとって、赤裸々な姿をさらす相手としては、もっとも嫌な部類に入るであろう二人の生徒を、仲間に加えてやった。
 吉永香織。石野さゆり。竹内明日香。その腐りきった三人に加え、滝沢秋菜と足立舞。涼子に恥辱を与えることにおいて、その五人の組み合わせは、まさに天の配剤だという気がする。明日は、その五人の手が、触手のように伸びて、涼子の肉体に絡みつくのだ。それを思うと、興奮と快感は、一段と高いところへ押し上げられた。
 せわしなく性器を愛撫する右手の動きに合わせて、熟し切った果実が潰れるような、卑猥な音が鳴り続けている。



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