バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第二十三章
ジレンマ
5



 やがて、舞の手つきが変わり、双方の乳房の上部が、軽く絞られる格好となった。やや濃い色をした乳輪部が、輪ゴムをいじったように、うねうねと形を変える。決して望まぬ愛撫だったとはいえ、女性の性感帯を刺激され続けたために、左右の乳首は、いかにも敏感そうな屹立ぶりを見せていた。
 間違いない。舞の関心は、今、乳首の部分に集中しているのだ。
 やめてよ……。そんなところにまで、手を出してこないで……。
 涼子が、胸の内で、そう祈っていた矢先のことである。
 左の乳首。そこに、舞の人差し指が、控えめながらも、つん、つん、と二度、触れてきたのだった。
 涼子は、自分の体の、ありとあらゆる部分に、びっしりと鳥肌が立つのを感じた。
 このクソガキ……!
 普段なら、念頭に浮かぶことすらない、乱暴な言葉で、内心、舞に対して、激しく毒突く。
 乳輪の周りのうぶ毛まで逆立った、涼子の乳房を、舞は、きらきらとした目で見つめる。その後、ようやく涼子の身から両手を離し、幾分、後ろめたそうに、顔をうつむけながら、香織のほうに体を向けた。
「もう、気が済んだ? 舞ちゃん」
 香織が、優しい声で訊く。
 舞は、一拍、間を置いてから、こくっとうなずく。
 涼子の後ろ髪をつかんでいる、さゆりが、そこで、その手を離した。
 
 香織たち三人は、涼子から離れると、そのまま、肩を並べて遠ざかっていく。
 涼子は、舞の手のひらの感触を忘れるために、自分の乳房を、がりがりと掻き毟りたい衝動に襲われた。だが、パンツまで脱がされているせいで、それすら行うことができない。居ても立ってもいられないほど苛立ちが募り、苦し紛れに、両腕の上腕を、乳房にこすり付けた。
 たった今、自分が味わった、性的な辱め……。
 いや、もはや、辱めなどという言葉で表現するのは、生ぬるいであろう。
 自分は、自分のことを性的対象として見る、同性の手で、体を陵辱されたのだ。
 涼子は、憎悪をたぎらせ、香織たち三人の背中を、真っ直ぐにねめつけた。

「舞ちゃん舞ちゃん……。今日は、思い切って、このイベントに参加して、よかったでしょう?」
 香織が、浮かれた口調で尋ねる。
「うんっ、よかったっ」
 舞は、今までにない、はきはきとした声で答える。まるで、リレーで一等賞を取ったかのような、誇らしげな態度である。
「で……、どうだった? 南せんぱいの、おっぱいの、感触は」
 香織は、まさに、恋人との性行為に関する話題のような口振りで問う。
「なんか……、むにゅむにゅうっ、ってしてて、触ってて、すっごい、気持ちよかった……。あ、でも……」
 舞は、一度、言葉を切る。
「でも?」
 香織が、言葉の続きを促す。
「南先輩の、体……、汗だくだったから……、ちょっとだけ、ばっちい感じがした」
 舞は、そう口にしながら、ゆっくりと顔を巡らせ、横目で、涼子のことを見てきた。その口もとには、涼子を馬鹿にするような苦笑が、かすかに表れている。
「わかるわかる、それ……。あのさあ、南さん……、あなたの、その、超絶な汗っかき体質と、あと、言っちゃあ悪いけど、むせ返るような、きっつい体臭。女の子なんだから、どうにかして改善しなさいよ。じゃないと、舞ちゃんにも、そのうち、幻滅されちゃうよ?」
 香織も、ふてぶてしい笑い顔で、涼子に向かって言い放つ。
 
 どうやら、舞の、涼子に対する心情に、変化が起こり始めたらしい。
 直接、自らの手で、涼子の体に、性的な行為を加えるという、大それたことを実行し、それでいながら、何事もなく無事に済んだ。その成功体験により、自信のようなものが生まれたのだろう。香織の言うとおり、もはや、涼子など、恐れるに値しない、と。つまり、舞にとって、涼子は、軽侮の対象に成り下がったのだ。その心理が、今、涼子を愚弄する言葉として現れた。いや、もっといえば、涼子への嗜虐心さえもが芽生えたと、そう判断すべきかもしれない。ならば、この先、舞は、どんどん増長していくに違いない。そうして、香織たちと一緒になって、涼子を、享楽の道具として扱い、きゃっきゃっ、と笑い声を上げる……。そんな舞の姿が、今から目に浮かぶようだった。
 涼子は、舞に向かって、呪詛の念を送る。
 そっか……。もう、きみも、完全に、そっち側の人間なんだね……。それならそれで、構わない。でも、覚えておきなよ。もし、今後の高校生活のなかで、わたしが、吉永香織たちに、復讐できる状況になったなら……。制裁を加えるリストに、きみの名前も、ちゃーんと載ってるからね。今日この日、きみが、わたしを侮辱した分だけ、また、わたしの体をもてあそんだ分だけ、わたしは、きみの、その顔に、拳を叩き込む。きみが、どんなに泣きわめこうが、わたしは、きみのことを絶対に許さない。わたし、その時を、今から楽しみにしてるよ……。ふふふっ……。



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