バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第二十六章
壊れかけの偶像
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 この現場には、陰惨な性暴力という言葉では表現しきれない、至極、怪奇な雰囲気が漂っていた。
 まず、第三者の視点でも、セーラー服姿の少女たちが、加害者的な立場にあることは、自明の理である。そして、ひとり、全裸姿をさらしている女の子の惨めさが、当然ながら、極度に際立っている。まさしく地獄絵だといえた。しかし、その被害者らしき彼女を、前から見ると、なんとも奇異な様子を呈していることがわかる。
 彼女は、目も当てられないほど、悲惨な立場に立たされているが、にもかかわらず、ロマンチックな夢に浸っているみたいに、組んだ両手に、左頬をのせ、さらには、あたしのこの、ピュアなハートを、傷つけたりしないでね、とでも言わんばかりにアヒル口を作っているのだ。きっと、男に媚びるタイプの女を嫌う女性が見たら、胸がむかむかするような思いになるに違いない。
 また、その不自然さが助長されているのは、彼女の身体的特徴のせいもあるだろう。飾り気のないショートカット。女性にしては、肩幅が広く、加害者連中の誰よりも、上背がある。その体格を活かして、スポーツに取り組んでいるらしいことが、二の腕や太ももに現れた、筋肉の浮き出具合から察せられる。つまり、ボーイッシュであり、なおかつ、見るからに体育会系の彼女に、そんな可愛い子ぶった様は、恐ろしく不似合いなのだ。その上……、彼女にしても、年頃の女の子であることには、変わりないので、間違いなく、コンプレックスを持っているはずの、岩礁に着生した藻のように茂った、おびただしい量の陰毛も、不調和感を醸すのに、一役買っていた。
 
 今現在、果たして、彼女は、どれほど恥ずかしい気持ちでいるのだろうか……?
 その心中を、正確に読み取るのは困難だが、しかし、彼女が、心身ともに、健康とは、はるかにかけ離れた状態にあることは、容易に見て取れる。
 いったい、その瞳には、どのような景色が映っているのかと問いたくなる、焦点の合っていない目。顔色が悪い、というより、なにか、体は、血液ではなくドブ水で作られてでもいるかのように、顔面は土気色だ。それに、清純さを気取ったポーズを取っていながらも、全身が、がたがたと激しく震え続けているのである。
 彼女を、それほどまでに追い込んでいる、そもそもの原因は……。
 その答えは、彼女の背後に回ってみれば、たちどころに判明する。
 そこにしゃがみ込んでいるのは、彼女と比べると、見た目年齢が、大人と子供のような差の、セーラー服を身に着けていなければ、小学生とも見紛いそうな少女だった。あろうことか、その少女は、ひとり、全裸姿で立つ彼女のおしりの、なるたけ深部まで、割れ目を押し広げようとしながら、そこに、半ば鼻を突っ込むような体勢を取っているのである。あどけない容姿には、およそ似つかわしくない、下劣極まりない変態行為。どこからどう見ても、その少女には、レズビアン的な傾向があると、そう判断せざるを得なかった。
 すなわち、全裸姿の彼女は、はち切れんばかりに若々しい、と同時に、充分に成熟した感のある、自身の肉体を、同性に、それも、いかにも未熟な少女に、性欲のはけ口として利用されている最中なのだ。そして、ダイナマイトヒップとも呼ぶべき、迫力満点のおしりに着目してみると、現在の彼女の苦悶ぶりが、如実に現れていた。おしりの外側、つまり、左右両側が、べっこりと大きくへこんでいる様を見ると、大臀筋に、死ぬ気で力を入れているのが、ひしひしと伝わってくる。要するに、肛門をさらけ出すことに対して、それだけ激烈な拒絶感を抱いているという証左である。
 しかし、背後にいる少女が、これまた小さなお手々で、可能な限りとばかりに、おしりの肉を、左右に引っ張っているため、割れ目の内側に汗で張りついた、多くの縮れ毛が、すでに覗いてしまっている。全裸姿の彼女にとっては、おそらく、その部位の毛深さも、コンプレックスであろうことを考えると、それは、ぞっとするくらい無残な有様に見えるのだった。
 
 いずれにせよ、常識的に考えて、年頃の女の子が、全身全霊で、おしりの肉を引き締めながら、また、その割れ目から漏れ出る便臭を、レズビアンの少女に吸い込まれるという恥辱に、内心では悶え苦しみながら、表面上は、乙女チックな姿をアピールするなど、到底、できるものではない。
 だから、人が、現在の彼女の姿を、とりわけ、その、アヒル口の表情を見たとしたら、きっと、こう思うに違いない。
 このボーイッシュな女の子は、人間として、とっくに壊れている……。
 陰鬱な地下の空間とはいえ、かりにも学校の敷地内である場において、今現在、あたかも、殺人をも請け負う闇のシンジケートによって、不幸にも剥製化された、うら若き女の子を、よこしまな少女たちが、死者の尊厳というものを徹底的に無視し、享楽の道具として扱っているかのような、世にもまがまがしい光景が繰り広げられているのだった。




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